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在家信者においても師の話を聞いただけで悟ったという経文は多数あり、その中のある女性は、ある遊園に行った帰りに、ゴータマと出会い、「大いなる仙人のことばを聞いて、真実に通達し、まさにその場で、汚れのない真理の教え、不死の境地を体得しました。」と語ったとされる。 <ref>『尼僧の告白』1982年岩波書店P36中村元</ref>
 
=== 初期仏教における清らか行い ===
初期仏教においては、仏は、人々を救済することができないとされていた<ref>『ブッダのことば スッタニパータ』岩波書店 1984年 P420の注 中村元</ref>。他者によって救われるのではなく、各人が[[清浄行|清らかな行い]]により、さとりの道を歩み続けることが大切であると説いていた。ゴータマは、人類全体が清らかな行いにつとめはげみ、苦集滅道の法が広がってゆくことを、遊行の目的としていたようである。そして、さとりを求める修行の全体とは、善友を作ることであるとしていた<ref>『原始仏典Ⅱ相応部第一巻』岩波書店 P137 中村元ほか</ref><ref>ゴータマの教えは、その全体が善き友を持つことによる継続的な八正道の実践を目指すものであったと同時に、自らも善き友となるように努めてゆく実践的・人格的性質を持ったものであったとする見解がある。『2つの扉』 三宝出版 2022年 P143 高橋佳子</ref>。
[[清浄行]]の項目を参照
 
「善き友をもつことは、清浄行の全体である。」<ref>『原始仏典Ⅱ相応部第一巻』岩波書店 P137 中村元ほか</ref>と語り、修行に関係している者全体が、清らかな行いをとおして八つの正しい道を修めることになるであろうとした。そして、自分自身も善き友となるように、善きことをなすのに務め励むならば、八つの正しい道を盛んならしめることになることを教示した。
ゴータマは、いかなる宗教をも容認する立場を取っていたとされ、仏教という特定の立場を設けて、他の宗教の実践者を否定しなかった。ブッダの教えの特徴としては協和の精神があげられる<ref>『ブッダ最後の旅』岩波文庫 2001年 P197の注 中村元</ref>。社会的には共同体を和の精神をもって運営してゆくことをはじめとして、生き物を殺さないという観点からは、他民族との平和というものが念頭にあったことが考えられる。人間の守るべき理法は永遠のものであり、それは諸仏の教えとしてすでに往時から実践的に体得されてきたとされている。特定の宗教を立てず、いかなる宗教をも容認するということは、いかなる宗教も、人格的な理法の働きかけの面を有しているとする考えにつながっている。
 
「私(ゴータマ)を善き友とすることによって、生老病死という性質を持っている人は生老病死から解脱し、悲しみ、嘆き、苦しみ、悶えという性質を持っている人々は、悲しみ、嘆き、苦しみ、悶えという性質から、解脱するのである」<ref>『ブッダ 神々との対話 サンユッタ・ニカーヤⅠ』岩波書店 1986年 P192   中村元</ref>と語ったとされている。そのことは、晩年にいたるまで各地を遍歴し対機説法をなしていたゴータマにとって、自他ともに善き友になってゆく世の中になることが実践的な仏教の(四諦のなかで言うと)滅諦となっていたと見ることができる。
 
213 「世の人々のことについて、聖者は、善き友と交わることをほめたたえられました。
215 ひとは、四つの尊い真理、すなわち苦しみと、苦しみの生起と、終滅と、八つの実践法よりなる道とを識知すべきであります。222 わたしは、八つの実践法よりなる尊い道、[[不死]]に至る道を実習しました。安らぎを現にさとって、真理の鏡を見ました。」とゴータミー尼は語ったとされる<ref>『尼僧の告白』1982年 岩波書店 P49 中村元</ref>。
さとりの道に到達した者は、何転生かののちには必ず悟りに到達すると言われていたことから考えると、清浄行の全体というものは修行完成者の立場から見た場合、今世のみにとどまらず、光に向かう人間全体が何転生にもわたって清浄行に努めるというほどの意味合いがあったものと見ることが出来る。
 
==== 修行完成者の場合 ====
ゴータマは、自らが人々の善き友となることによって、人々が清浄行に至れるように導かれ、人生の試練や生老病死の世界から脱し、幸せに至ることができるとした<ref>『原始仏典Ⅱ相応部第一巻』岩波書店 P137 中村元ほか</ref>。「わたしは、天界の絆、人間の絆、すべてのきずなから解放されている。多くの人々の利益のために、多くの人々の幸せのために、世間の人々をあわれむために、神々(死んだ人間とほぼ同じ)および人間の利益のために、幸せのために、遍歴をなせ。」と修行僧たちに説話をした<ref>『原始仏典Ⅱ相応部第一巻』岩波書店 P165 中村元ほか</ref>。
 
=== 初期仏教の世界観 ===
[[初期仏教の世界観]]の項目を参照