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'''糠'''(ぬか)とは、[[穀物]]を[[精米機|精白]]した際に出る[[果皮]]、[[種子#種子の構造|種皮]]、[[胚芽]]などの部分のことである。'''ブラン'''({{lang-en-short|[[w:Bran|Bran]]}})とも呼ばれる。 |
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== 概要 == |
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[[ファイル:コイン精米機の米ぬかボックス.jpg|thumb|コイン精米機の米ぬかボックス]] |
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[[ファイル:米ぬか.jpg|thumb|米ぬか]] |
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[[イネ科]]植物の[[果実]]は[[穎果]]と呼ばれる形態で、表面を一体化した果皮と種皮で硬く覆われている。これを除去する過程が精白で、この際に得られる穎果の表層部分が糠である。日本では、歴史的に[[米]]から出るものが身近であったため、単に糠と言えば「米糠」を指す場合が多い。米の栄養素の95%は米糠中に存在する<ref>{{Citation|title=米糠成分の有効利用(企業のページ)|url=https://doi.org/10.20632/vso.79.10_509|publisher=公益社団法人 [[日本ビタミン学会]]|date=2005|accessdate=2020-03-18|doi=10.20632/vso.79.10_509|language=ja|first=めぐみ|last=門田}}</ref>。 |
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同じイネ科の[[トウモロコシ]]は、大きな胚乳の回りの果皮が厚く、収穫から日数が経過したものは乾燥・硬化して除去がさらに困難となるため、そのまま挽いて糠ごと粉にして食用とする([[コーンフレーク]]など)。[[グルテン]]を含まず粘性がないので、中南米では[[ニシュタマリゼーション]]と呼ばれる[[アルカリ]]処理を行って[[パン生地]]のような粘性と[[ナイアシン]]吸収性を持たせ、これを挽いて糠ごと粉にした[[マサ]]を作って食用([[トルティーヤ]]などが知られる)とする。 |
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糠は穀物の精白過程で大量に排出されるのに対して用途は限られるために価値は低く、基本的には[[廃棄物]]扱いである。処分するのにもコストがかかるため、日本の[[精米機#利用形態による区分|コイン精米機]]では精米時に発生する米糠を希望者に無料で提供している。 |
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== 利用 == |
== 利用 == |
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=== 食品 === |
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単品では使用されることが少なく、油分が多いことから油([[こめ油|米ぬか油]])を絞る、あるいは[[栄養価]]が高いことから[[漬物]]の一種である[[糠漬け|ぬか漬け]]の「ぬか床(ぬかみそ)」として使用される。精白せずに[[玄米]]や[[全粒粉]]といったかたちで、糠ごと[[穀物]]を食べることもある。また、[[タケノコ]]の調理をする際に行う[[灰汁|あく]]抜きと鮮度保持のための下茹での際に、[[水溶性ビタミン]](特に[[ビタミンB群|B群]])の流出を抑える目的で使用する場合がある。ビタミンB群を多く含むため、米糠は明治期に[[脚気]]に効果あるとされた。この報告は正しかったが、当時の識者からは嘲笑で迎えられた。 |
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精白しない[[玄米]]や[[全粒粉]]として穀物ごと摂取したり、搾油して[[こめ油|米ぬか油]]として、[[糠漬け|ぬか漬け]]の「ぬか床(ぬかみそ)」として利用されている。 |
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日本では伝統的に『米のとぎ汁』を様々な料理の下ごしらえに利用してきた。 |
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[[福岡県]][[北九州市]]の[[小倉]]・[[門司]]地区や[[行橋市]]など旧[[小倉藩]]に属する地域では、[[イワシ|鰯]]や[[サバ|鯖]]などの青魚をぬか床(糠味噌)その他の調味料で煮る[[ぬか炊き]](北九州では「じんだ煮」と称する。「じんだ」はぬかみその意の[[古語]]が[[方言]]化したもの)がポピュラーな[[郷土料理]]となっている(→[[鰯のぬか炊き]])。現代では「ぬかみそ」と言えばぬか床のことであるが、古来は[[大豆]]や、[[麹]]などと合わせて[[醸造]]された「ぬかみそ」が現代の[[味噌]]のように直接食用とされていた。「ぬか炊き」はその名残である。 |
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[[タケノコ]]の下茹で([[灰汁|あく]]抜き)<ref>{{Cite web|和書|title=実は簡単!たけのこのアク抜き&保存のコツ|url=http://www.kagome.co.jp/vegeday/eat/201704/6736.html|website=Vegeday|accessdate=2020-03-18|language=ja}}</ref>、身欠きニシンの戻しなど。 |
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なお、三大酵素のひとつとされる[[脂質]]を[[加水分解]]する[[リパーゼ]]を含むとされることがあるが、正確には米ぬか油に繁殖した油分を資化する[[バクテリア]]を利用している。 |
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[[福岡県]][[北九州市]]の[[小倉]]{{要曖昧さ回避|date=2022年8月}}・[[門司区|門司]]地区や[[行橋市]]など旧[[小倉藩]]に属する地域では、[[イワシ|鰯]]や[[サバ|鯖]]などの青魚をぬか床(糠味噌)その他の調味料で煮る[[鰯のぬか炊き|ぬか炊き]](北九州では「じんだ煮」と称する<ref>{{Cite web|和書|title=じんだ煮(JA北九)|保存食・常備菜|JAグループ福岡|url=http://www.ja-gp-fukuoka.jp/eat/recipe/detail.php?id=550|website=www.ja-gp-fukuoka.jp|accessdate=2020-03-18}}{{出典無効|title=さもJA北九がそう公表したかのように記しているが、実際にはリンク先にそのような記述は無かった(https://web.archive.org/web/20170913062132/https://www.ja-gp-fukuoka.jp/eat/recipe/detail.php?id=550 参照)。「JA北九によるこのような料理コラムがあったこと」を「北九州では○○と称する」と曲げて解釈した結果でしかない。|date=2022年8月}}</ref>。「じんだ」はぬかみその意の[[古語]]が[[方言]]化したもの)がポピュラーな[[郷土料理]]となっている。{{main|[[鰯のぬか炊き]]}}現代では「ぬかみそ」と言えばぬか床のことであるが、古来は[[ダイズ|大豆]]や[[麹]]などと合わせて[[醸造]]された「ぬかみそ」が現代の[[味噌]]のように直接食用とされていた。「ぬか炊き」はその名残である。[[食物繊維]]、[[ビタミン]]、[[ミネラル]]などの栄養素が含まれている点<ref>{{Cite web|和書|url=https://www.nisshin.com/company/research/nutrition/|title=小麦の栄養と機能|publisher=[[日清製粉グループ本社|日清製粉グループ]]|accessdate=2020-01-30}}</ref>が見直され、特に小麦ふすまを「'''ブラン'''」と呼んで健康食品等に利用する例も増えてきている。 |
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[[ビタミンB群]]を多く含むため、[[脚気]]を予防できる。 |
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[[家畜]]や[[家禽]]の[[飼料]]に配合されることがあるほか、[[キノコ]]栽培の重要な資材にもなっている。 |
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日本では[[明治]]期に軍隊で流行し多数の死者を出したが、当時の[[衛生学]]は[[細菌]]による[[感染症]]を重視していた<ref>陸軍軍医だった[[森鴎外]]のエピソードが知られている</ref>ため、[[栄養学]]面から軍の糧食、『白米』を食べられることが重視されていた<ref>兵站上の都合で麦飯を支給したところ、脚気は減ったが兵卒は大いに不満を抱いたという</ref>ことに原因があると認識されるのは、明治後期から大正時代になってからだった。 |
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=== 洗剤 === |
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また食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が含まれている点が見直され、特に小麦ふすまを「'''ブラン'''」と呼んで健康食品等に利用する例も増えてきている。 |
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脱脂した米糠は[[家畜]]や[[家禽]]の[[飼料]]に配合されることがあるほか<ref>{{Cite journal|和書 |author =佐藤裕子,飯野 幸弘,沼澤穂奈美,小松正尚 |date = 2018-03 |title = 飼料用籾米と脱脂米糠の給与が「やまがた地鶏」の生産性に及ぼす影響 |journal =山形県農業研究報告(Bulletin of Agricultural Research in Yamagata Prefecture) |volume = 10 | |pages = 69-76 |publisher =山形県農業総合研究センター |ref = harv }}</ref><ref>{{Cite journal|和書 |author =下郡洋一郎, 浦野松幸 |date = 1988 |title = 人工飼料原料の可消化粗蛋白質含有率と代謝エネルギー |journal =日本蚕糸学雑誌 |volume = 57 |issue=5 |pages =393-397 |publisher =社団法人日本蚕糸学会|doi=10.11416/kontyushigen1930.57.393 |ref = harv }}</ref>、鋸屑と米糠を混ぜたものは[[キノコ栽培]]の[[培地|培養基]]として活用されている<ref>{{Cite journal|和書|last=伊藤|first=均|last2=佐藤|first2=友太郎|date=1975-08-15|title=オガクズ培養基の放射線殺菌とキノコの栽培|url=https://doi.org/10.3136/nskkk1962.22.401|journal=日本食品工業学会誌|volume=22|issue=8|pages=401-407|doi=10.3136/nskkk1962.22.401|issn=0029-0394}}</ref>。 |
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=== 工業製品 === |
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⚫ | 脱脂した米糠を原料とするRB({{Lang-en-short|Rice Bran}}: 米糠)[[セラミックス|セラミック]]なども開発されている<ref>{{Cite web|和書|title=研究紹介 {{!}} 東北大学大学院 工学研究科 堀切川・柴田/山口(健)研究室|url=http://www.glocaldream.mech.tohoku.ac.jp/ja/laboratory/research.html|website=www.glocaldream.mech.tohoku.ac.jp|accessdate=2020-03-18}}</ref>。軽量ながら高い強度と硬度を持ち、優れた耐摩耗性、低摩擦特性があるため、無潤滑のすべり[[軸受]]などに利用され、[[国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡]]の赤外線分析装置の可動部にも採用されている。その他にも[[ゴム]]に混ぜる事でウェット面でも耐滑性が得られる事から、RBセラミックをゴム底に配合した[[靴]]や[[トレッド (タイヤ)|トレッド]]ゴムに配合した[[自転車用タイヤ]]などが製品化されている。 |
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* [[フィチン酸]] |
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米糠を利用して[[新聞紙]]から[[インキ]]を抜いて[[再生紙]]を作ることが可能であり、[[宮島清次郎]]を社長に迎えて[[国策会社]]として[[国策パルプ]](社長は[[宮島清次郎]])を設立した。 |
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* [[イノシトール]] |
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== 糠と動物 == |
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* [[フェルラ酸]] |
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*米糠の臭気は、糠を好物とする[[クマ]]を呼び寄せる可能性を高める。日本では、しばしば米糠を貯蔵する倉庫がクマの襲撃を受ける事例が発生する<ref>{{Cite web|和書|date=2019-06-20 |url=https://www.sakigake.jp/news/article/20190620AK0002/ |title=壁に穴、クマ食害か 米ぬか食い荒らされる、秋田市河辺 |publisher=[[秋田魁新報]] |accessdate=2019-06-18}}</ref><ref>{{Cite web|和書|date=2019-06-06 |url=https://news.ibc.co.jp/item_36404.html |title=花巻のバラ園 クマに米ぬか食べられる/岩手 |publisher=[[岩手日報IBCニュース|IBC NEWS]] |accessdate=2019-06-18}}</ref>。 |
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* [[γ-オリザノール]] |
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*奈良県では鹿がレジ袋やパンフレットなどを食べてしまうため、動物への影響が少ない米糠を配合した紙への利用を進めている<ref>{{Cite web |title=米ぬか配合紙、誤食でもシカに害少なく 奈良の企業開発 |url=https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56442340V00C20A3LKA000/ |website=日本経済新聞 |date=2020-03-05 |access-date=2024-06-30 |language=ja}}</ref>。 |
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{{栄養価 | name=米ぬか<ref name=mext>[[文部科学省]]、「[https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/1365297.htm 日本食品標準成分表2015年版(七訂)]」</ref>| kJ =1723| water=10.3 g| protein=13.4 g| fat=19.6 g| satfat=3.45 g| monofat = 7.37 g| polyfat =5.90 g| carbs=48.8 g| opt1n=[[食物繊維|水溶性食物繊維]]| opt1v=2.2 g| opt2n=[[食物繊維|不溶性食物繊維]]| opt2v=18.3 g| fiber=20.5 g| sodium_mg=7| potassium_mg=1500| calcium_mg=35| magnesium_mg=850| phosphorus_mg=2000| iron_mg=7.6| zinc_mg=5.9| copper_mg=0.48| Manganese_mg=14.97| selenium_ug =5| vitE_mg =10.4| thiamin_mg=3.12| riboflavin_mg=0.21| niacin_mg=34.6| vitB6_mg=3.27| folate_ug=180| pantothenic_mg=4.43| opt3n=[[ビオチン|ビオチン(B<sub>7</sub>)]] | opt3v=38.2 µg| right= }} |
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2024年6月30日 (日) 07:13時点における最新版
糠(ぬか)とは、穀物を精白した際に出る果皮、種皮、胚芽などの部分のことである。ブラン(英: Bran)とも呼ばれる。
概要
[編集]イネ科植物の果実は穎果と呼ばれる形態で、表面を一体化した果皮と種皮で硬く覆われている。これを除去する過程が精白で、この際に得られる穎果の表層部分が糠である。日本では、歴史的に米から出るものが身近であったため、単に糠と言えば「米糠」を指す場合が多い。米の栄養素の95%は米糠中に存在する[1]。
他に、大麦の糠は「麦糠」、小麦の糠は「ふすま」(麬)、燕麦の糠は「オートブラン」(英: Oat bran)と言う。多くの穀物では穎果の外層が胚乳よりも脆いため、精白に際して杵や棒で搗くなどし、表面に衝撃を与える(搗精)ことで糠だけが砕けて胚乳から剥がれる。これをふるいわけて分離する。小麦の場合には胚乳のほうが穎果の外層よりも脆いため、穎果全体を丸ごと砕いて製粉するときに細かく砕けず、粗大片として残るふすまをふるいわけて分離する。
同じイネ科のトウモロコシは、大きな胚乳の回りの果皮が厚く、収穫から日数が経過したものは乾燥・硬化して除去がさらに困難となるため、そのまま挽いて糠ごと粉にして食用とする(コーンフレークなど)。グルテンを含まず粘性がないので、中南米ではニシュタマリゼーションと呼ばれるアルカリ処理を行ってパン生地のような粘性とナイアシン吸収性を持たせ、これを挽いて糠ごと粉にしたマサを作って食用(トルティーヤなどが知られる)とする。
糠は穀物の精白過程で大量に排出されるのに対して用途は限られるために価値は低く、基本的には廃棄物扱いである。処分するのにもコストがかかるため、日本のコイン精米機では精米時に発生する米糠を希望者に無料で提供している。
利用
[編集]食品
[編集]精白しない玄米や全粒粉として穀物ごと摂取したり、搾油して米ぬか油として、ぬか漬けの「ぬか床(ぬかみそ)」として利用されている。
日本では伝統的に『米のとぎ汁』を様々な料理の下ごしらえに利用してきた。 タケノコの下茹で(あく抜き)[2]、身欠きニシンの戻しなど。 なお、三大酵素のひとつとされる脂質を加水分解するリパーゼを含むとされることがあるが、正確には米ぬか油に繁殖した油分を資化するバクテリアを利用している。
福岡県北九州市の小倉[要曖昧さ回避]・門司地区や行橋市など旧小倉藩に属する地域では、鰯や鯖などの青魚をぬか床(糠味噌)その他の調味料で煮るぬか炊き(北九州では「じんだ煮」と称する[3]。「じんだ」はぬかみその意の古語が方言化したもの)がポピュラーな郷土料理となっている。
現代では「ぬかみそ」と言えばぬか床のことであるが、古来は大豆や麹などと合わせて醸造された「ぬかみそ」が現代の味噌のように直接食用とされていた。「ぬか炊き」はその名残である。食物繊維、ビタミン、ミネラルなどの栄養素が含まれている点[4]が見直され、特に小麦ふすまを「ブラン」と呼んで健康食品等に利用する例も増えてきている。
ビタミンB群を多く含むため、脚気を予防できる。 日本では明治期に軍隊で流行し多数の死者を出したが、当時の衛生学は細菌による感染症を重視していた[5]ため、栄養学面から軍の糧食、『白米』を食べられることが重視されていた[6]ことに原因があると認識されるのは、明治後期から大正時代になってからだった。
洗剤
[編集]日本では合成洗剤が普及するまで、米糠は洗剤としても広く用いられていた[7]。米糠に含まれるγグロブリンというタンパク質が界面活性剤の役割を果たしているとされている。布袋に包み、柱や床を磨き上げるなどの掃除にも利用された。
飼料・培養基
[編集]脱脂した米糠は家畜や家禽の飼料に配合されることがあるほか[8][9]、鋸屑と米糠を混ぜたものはキノコ栽培の培養基として活用されている[10]。
工業製品
[編集]脱脂した米糠を原料とするRB(英: Rice Bran: 米糠)セラミックなども開発されている[11]。軽量ながら高い強度と硬度を持ち、優れた耐摩耗性、低摩擦特性があるため、無潤滑のすべり軸受などに利用され、国立天文台ハワイ観測所すばる望遠鏡の赤外線分析装置の可動部にも採用されている。その他にもゴムに混ぜる事でウェット面でも耐滑性が得られる事から、RBセラミックをゴム底に配合した靴やトレッドゴムに配合した自転車用タイヤなどが製品化されている。
米糠を利用して新聞紙からインキを抜いて再生紙を作ることが可能であり、宮島清次郎を社長に迎えて国策会社として国策パルプ(社長は宮島清次郎)を設立した。
糠と動物
[編集]- 米糠の臭気は、糠を好物とするクマを呼び寄せる可能性を高める。日本では、しばしば米糠を貯蔵する倉庫がクマの襲撃を受ける事例が発生する[12][13]。
- 前近代日本では、ウマといった家畜の餌として藁と共に出されていた。例として、軍記物である『小田原北条記』巻五の「松山合戦」において、馬の餌である藁と糠を貯える記述がある。
- 奈良県では鹿がレジ袋やパンフレットなどを食べてしまうため、動物への影響が少ない米糠を配合した紙への利用を進めている[14]。
主な成分
[編集]100 gあたりの栄養価 | |
---|---|
エネルギー | 1,723 kJ (412 kcal) |
48.8 g | |
食物繊維 | 20.5 g |
19.6 g | |
飽和脂肪酸 | 3.45 g |
一価不飽和 | 7.37 g |
多価不飽和 | 5.90 g |
13.4 g | |
ビタミン | |
チアミン (B1) |
(271%) 3.12 mg |
リボフラビン (B2) |
(18%) 0.21 mg |
ナイアシン (B3) |
(231%) 34.6 mg |
パントテン酸 (B5) |
(89%) 4.43 mg |
ビタミンB6 |
(252%) 3.27 mg |
葉酸 (B9) |
(45%) 180 µg |
ビタミンE |
(69%) 10.4 mg |
ミネラル | |
ナトリウム |
(0%) 7 mg |
カリウム |
(32%) 1500 mg |
カルシウム |
(4%) 35 mg |
マグネシウム |
(239%) 850 mg |
リン |
(286%) 2000 mg |
鉄分 |
(58%) 7.6 mg |
亜鉛 |
(62%) 5.9 mg |
銅 |
(24%) 0.48 mg |
セレン |
(7%) 5 µg |
他の成分 | |
水分 | 10.3 g |
水溶性食物繊維 | 2.2 g |
不溶性食物繊維 | 18.3 g |
ビオチン(B7) | 38.2 µg |
| |
%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
- フィチン酸 - 抗がん作用・抗腫瘍作用、尿路結石や腎結石の予防、歯垢形成抑制の効果などがあるとされる。
- イノシトール - 脂肪肝や高脂血症、セロトニン異常に起因するうつ病、パニック障害、強迫神経症に有効とされる研究結果もある。
- フェルラ酸 - 米糠に特有である。紫外線吸収、酸化防止機能があり、食品や化粧品に用いられる。
- γ-オリザノール - 米糠に特有である。コレステロールの吸収を抑える作用、更年期障害などの不定愁訴に効用があるとして医薬品として用いられる。また、紫外線防止のために化粧品に用いられる。
- 食物繊維
- ビタミンB1
- ビタミンB6
- ビタミンE
- ミネラル
脚注
[編集]- ^ 門田めぐみ『米糠成分の有効利用(企業のページ)』公益社団法人 日本ビタミン学会、2005年。doi:10.20632/vso.79.10_509 。2020年3月18日閲覧。
- ^ “実は簡単!たけのこのアク抜き&保存のコツ”. Vegeday. 2020年3月18日閲覧。
- ^ “じんだ煮(JA北九)|保存食・常備菜|JAグループ福岡”. www.ja-gp-fukuoka.jp. 2020年3月18日閲覧。[出典無効]
- ^ “小麦の栄養と機能”. 日清製粉グループ. 2020年1月30日閲覧。
- ^ 陸軍軍医だった森鴎外のエピソードが知られている
- ^ 兵站上の都合で麦飯を支給したところ、脚気は減ったが兵卒は大いに不満を抱いたという
- ^ 生活向上委員会『これで解決!おばあちゃんに聞く生活の知恵』SMART GATE Inc.、2015年6月。
- ^ 佐藤裕子,飯野 幸弘,沼澤穂奈美,小松正尚「飼料用籾米と脱脂米糠の給与が「やまがた地鶏」の生産性に及ぼす影響」『山形県農業研究報告(Bulletin of Agricultural Research in Yamagata Prefecture)』第10巻、山形県農業総合研究センター、2018年3月、69-76頁。
- ^ 下郡洋一郎, 浦野松幸「人工飼料原料の可消化粗蛋白質含有率と代謝エネルギー」『日本蚕糸学雑誌』第57巻第5号、社団法人日本蚕糸学会、1988年、393-397頁、doi:10.11416/kontyushigen1930.57.393。
- ^ 伊藤, 均、佐藤, 友太郎「オガクズ培養基の放射線殺菌とキノコの栽培」『日本食品工業学会誌』第22巻第8号、1975年8月15日、401-407頁、doi:10.3136/nskkk1962.22.401、ISSN 0029-0394。
- ^ “研究紹介 | 東北大学大学院 工学研究科 堀切川・柴田/山口(健)研究室”. www.glocaldream.mech.tohoku.ac.jp. 2020年3月18日閲覧。
- ^ “壁に穴、クマ食害か 米ぬか食い荒らされる、秋田市河辺”. 秋田魁新報 (2019年6月20日). 2019年6月18日閲覧。
- ^ “花巻のバラ園 クマに米ぬか食べられる/岩手”. IBC NEWS (2019年6月6日). 2019年6月18日閲覧。
- ^ “米ぬか配合紙、誤食でもシカに害少なく 奈良の企業開発”. 日本経済新聞 (2020年3月5日). 2024年6月30日閲覧。
- ^ 文部科学省、「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」