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{{Otheruses|化合物の〈せっかい〉|建材の〈しっくい〉|漆喰}}
[[画像:Calcium hydroxide.jpg|thumb|200px|石灰の一種である[[消石灰]]の粉末]]
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'''石灰'''(せっかい、Lime)とは、生石灰([[酸化カルシウム]]、CaO)または消石灰([[水酸化カルシウム]]、Ca(OH)<sub>2</sub>)のこと。[[炭酸カルシウム]](CaCO<sub>3</sub>)や[[カルシウム]](Ca)を指すこともある。
'''石灰'''(せっかいとは、生石灰([[酸化カルシウム]]、CaO)及び消石灰([[水酸化カルシウム]]、{{chem|Ca(OH)|2}})の総称<ref name="shimanishi" />。特に消石灰は粉体であり石灰(いしばい)ともいう<ref name="sumida" />なお、[[炭酸カルシウム]]({{chem|CaCO|3}})や[[カルシウム]](Ca)を指すこともある(これらについては各項目を参照)

消石灰は生石灰を[[水]]で[[水和反応|消和]]してつくり、炭酸カルシウムは消石灰と[[二酸化炭素]]が反応してできる。「いしばい」ともいう。


== 製法 ==
== 製法 ==
[[石灰岩]]の約52.0%は炭酸カルシウムであり、この石灰岩を900℃前後で加熱すると、脱水、分解を生じ、揮発成分が取り除かれる<ref name="shimanishi">{{Cite journal|和書|url= https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=AN00234698-20041000-0115 |title= 戦後石灰石鉱業史 : 業界誌『石灰石』を中心として |journal=三田商学研究 |volume=47 |issue=4 |pages=115-138 |author= 島西智輝 |publisher= 慶應義塾大学出版会 |accessdate= 2022-12-04 }}</ref><ref name="sumida">{{Cite journal|和書|url=https://doi.org/10.34360/00002412 |title= 古代から中世前期における石灰と漆喰の利用 (内藤雅雄教授退職記念号)|journal= 専修人文論集 |volume=88 |pages=49-76 |author= 角田清美 |publisher= 専修大学学会 |accessdate= 2022-12-04 }}</ref>。この過程を煆焼(かしょう)といい<ref name="shimanishi" />、こうして生成されたもの(酸化カルシウム)を生石灰(quick lime)という<ref name="sumida" />。
[[生石灰]]は、[[石灰岩]]などの主成分である炭酸カルシウムを1,100{{℃}}ほどに加熱し、[[二酸化炭素]]を放出させる[[熱分解]]により製造するが、これは人類が古代から知っている[[化学反応]]のひとつで、[[先史時代]]から知られている。[[化学反応式]]は以下のとおり。


これを[[化学反応式]]で示すと以下の通り。
:CaCO<sub>3</sub> &rarr; CaO + CO<sub>2</sub>
: <chem>CaCO3 -> CaO + CO2</chem>


この生石灰に水を加える(水和)と熱を発しながら水酸化カルシウムを生成する<ref name="shimanishi" /><ref name="sumida" />。これを分級整粒したものを消石灰(slaked lime)という<ref name="shimanishi" />。
== 産出 ==

[[石灰岩]]として[[セメント#セメント産業|石灰鉱山]]より産出する。採掘される石灰岩は、主として[[地質時代]]に生息していた石灰質の殻をもった海棲生物の遺骸などが堆積して地層化したもので、[[珊瑚]]や[[三葉虫]]、[[腕足類]]、[[アンモナイト]]、[[ウミユリ]]、[[紡錘虫]]、[[貨幣石]]といった[[化石]]が多く発見される(詳細は、'''[[石灰岩]]'''を参照)。
[[石灰石]]や[[貝殻]]・[[珊瑚]]などを焼いて石灰を作るための釜を[[石灰窯]]という。「生石灰」や「消石灰」の名称は、石灰窯(石灰焼窯)から出した物に水をかけると生きているように水蒸気と熱気が出ることから「生石灰」、それにさらに水をかけると消沈してしまうことから「消石灰」と呼ばれるようになった<ref name="sumida" />。


== 用途 ==
== 用途 ==
生石灰(酸化カルシウム)は、製鋼用で最も使用量の多い副原料であり不純物を取り除く造滓剤として利用されている<ref name="shimanishi" />。このほか[[化学工業]]や[[農薬]]、建材製造などに利用されている<ref name="shimanishi" />。生石灰(酸化カルシウム)には強い吸湿性があるため[[乾燥剤]]として使われることも多い<ref name="sumida" />。なお、生石灰と炭素材を電炉で加熱反応させた後に冷却固化したカーバイドは、石灰窒素やアセチレン製造の原料となる<ref name="shimanishi" />。
[[石灰石]]や[[貝殻]]・[[珊瑚]]などを焼いて石灰を作るための釜を、[[石灰釜]]という。石灰の用途は多岐にわたるが、[[建築材料]]としては、古代[[エジプト]]で発明された[[モルタル]]、[[近代建築]]に欠かせない[[コンクリート]]、また伝統的な[[日本家屋]]の[[白壁]]に使う[[漆喰]]の[[原材料]]でもある。


消石灰(水酸化カルシウム)は、漂白剤やソーダ製造などの化学工業、左官材料の漆喰、[[肥料]]や食品製造に利用されている<ref name="shimanishi" />。消石灰(水酸化カルシウム)はアルカリ性であり酸性化した土壌に撒く中和剤としても用いられる<ref name="sumida" />。運動場や野球場などで白線を引くためのライン引きにも使われてきたが、アルカリ性を持つために触ると皮膚がかぶれてしまう危険性があることに加え、目に入ると視力の低下を引き起こすなどの問題が指摘され、より安全性の高い[[炭酸カルシウム]]が使われはじめてはいる。[[フレスコ]]画の原料でもある。
また、[[農業]]、[[園芸]]分野では、[[カルシウム]]を俗に石灰という場合もある。


=== 建築材料 ===
安価で、よく[[湿気]]を吸うので[[乾物|乾物類]]などの[[乾燥剤]]として使われることも多い。
[[建築材料]]としては、古代[[エジプト]]で発明された[[モルタル]]、[[近代建築]]に欠かせない[[コンクリート]]、また伝統的な[[日本家屋]]の[[白壁]]に使う[[漆喰]]の[[原材料]]でもある。


粉体の石灰に水を練って混ぜ、再び乾燥させると空気中の炭酸ガスを吸収して固結し、耐水性や耐火性をもつようになる性質を利用している<ref name="sumida" />。
[[フレスコ]]画の原料。

===土壌改良材===
日本では[[江戸時代]]後期、田畑に石灰を投入することにより収穫量が増加することが見いだされた。価格も当時流通していた[[金肥]]の数分の一と安価であり、[[肥料]]の一種として珍重されるようになった<ref>[http://www.bunka.pref.mie.lg.jp/rekishi/kenshi/asp/hakken/detail.asp?record=267 いち早く使用制限-廉価で大流行の石灰肥料] 三重県環境生活部文化振興課県史編さん班 2017年7月17日閲覧</ref>。当時、石灰の生産は、石灰岩の産出地周辺で原始的な石灰窯で盛んに製造されている。[[20世紀]]に入ると化学肥料が製造され始めたが、原料が軍需物資ということもあり大規模な使用は控えられた。このため石灰は、[[第二次世界大戦]]が終了するまで農業生産に大きな役割を果たし続けた<ref>大山の歴史編集委員会(編)『大山の歴史』大山町、1990年、p.525</ref>。

==脚注==
{{Reflist}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[酸化カルシウム]](生石灰) CaO
* [[酸化カルシウム]](生石灰) CaO
* [[水酸化カルシウム]](消石灰) Ca(OH)<sub>2</sub>
* [[水酸化カルシウム]](消石灰) {{chem|Ca(OH)|2}}
* [[石灰岩]](岩石名)、[[石灰石]](鉱石名)、[[方解石]]・[[霰石]](鉱物名) CaCO<sub>3</sub>
* [[石灰岩]](岩石名)、[[石灰石]](鉱石名)、[[方解石]]・[[霰石]](鉱物名) {{chem|CaCO|3}}
* [[炭酸カルシウム]] {{chem|CaCO|3}}
* [[土壌改良]]
* [[土壌改良]]
* [[ラインパウダー]]
* [[ラインパウダー]]
* [[乾燥剤]]
* [[乾燥剤]]
* [[ライムライト (照明)|ライムライト]]
* [[ライムライト (照明)|ライムライト]]
* [[栃木県]][[佐野市]] (葛生地区)- 石灰石の採掘が盛んである。
* [[栃木県]][[佐野市]] ([[葛生町|葛生]]地区)- 石灰石の採掘が盛んである。
* [[埼玉県]][[秩父市]] - 石灰石の採掘が盛んである。
* [[埼玉県]][[秩父市]] - 石灰石の採掘が盛んである。
* [[山口県]][[美祢市]] - 石灰石の採掘が盛んである。
* [[山口県]][[美祢市]] - 石灰石の採掘が盛んである。
* [[ゼオライト]]
* [[チョーク]]
* [[水垢]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* [http://www.jplime.com/ 日本石灰協会/日本石灰工業組合]
* [http://www.jplime.com/ 日本石灰協会/日本石灰工業組合]


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2023年1月13日 (金) 06:57時点における最新版

石灰の一種である消石灰の粉末

石灰(せっかい)とは、生石灰(酸化カルシウム、CaO)及び消石灰(水酸化カルシウムCa(OH)2)の総称[1]。特に消石灰は粉体であり石灰(いしばい)ともいう[2]。なお、炭酸カルシウム(CaCO3)やカルシウム(Ca)を指すこともある(これらについては各項目を参照)。

製法

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石灰岩の約52.0%は炭酸カルシウムであり、この石灰岩を900℃前後で加熱すると、脱水、分解を生じ、揮発成分が取り除かれる[1][2]。この過程を煆焼(かしょう)といい[1]、こうして生成されたもの(酸化カルシウム)を生石灰(quick lime)という[2]

これを化学反応式で示すと以下の通り。

この生石灰に水を加える(水和)と熱を発しながら水酸化カルシウムを生成する[1][2]。これを分級整粒したものを消石灰(slaked lime)という[1]

石灰石貝殻珊瑚などを焼いて石灰を作るための釜を石灰窯という。「生石灰」や「消石灰」の名称は、石灰窯(石灰焼窯)から出した物に水をかけると生きているように水蒸気と熱気が出ることから「生石灰」、それにさらに水をかけると消沈してしまうことから「消石灰」と呼ばれるようになった[2]

用途

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生石灰(酸化カルシウム)は、製鋼用で最も使用量の多い副原料であり不純物を取り除く造滓剤として利用されている[1]。このほか化学工業農薬、建材製造などに利用されている[1]。生石灰(酸化カルシウム)には強い吸湿性があるため乾燥剤として使われることも多い[2]。なお、生石灰と炭素材を電炉で加熱反応させた後に冷却固化したカーバイドは、石灰窒素やアセチレン製造の原料となる[1]

消石灰(水酸化カルシウム)は、漂白剤やソーダ製造などの化学工業、左官材料の漆喰、肥料や食品製造に利用されている[1]。消石灰(水酸化カルシウム)はアルカリ性であり酸性化した土壌に撒く中和剤としても用いられる[2]。運動場や野球場などで白線を引くためのライン引きにも使われてきたが、アルカリ性を持つために触ると皮膚がかぶれてしまう危険性があることに加え、目に入ると視力の低下を引き起こすなどの問題が指摘され、より安全性の高い炭酸カルシウムが使われはじめてはいる。フレスコ画の原料でもある。

建築材料

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建築材料としては、古代エジプトで発明されたモルタル近代建築に欠かせないコンクリート、また伝統的な日本家屋白壁に使う漆喰原材料でもある。

粉体の石灰に水を練って混ぜ、再び乾燥させると空気中の炭酸ガスを吸収して固結し、耐水性や耐火性をもつようになる性質を利用している[2]

土壌改良材

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日本では江戸時代後期、田畑に石灰を投入することにより収穫量が増加することが見いだされた。価格も当時流通していた金肥の数分の一と安価であり、肥料の一種として珍重されるようになった[3]。当時、石灰の生産は、石灰岩の産出地周辺で原始的な石灰窯で盛んに製造されている。20世紀に入ると化学肥料が製造され始めたが、原料が軍需物資ということもあり大規模な使用は控えられた。このため石灰は、第二次世界大戦が終了するまで農業生産に大きな役割を果たし続けた[4]

脚注

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  1. ^ a b c d e f g h i 島西智輝「戦後石灰石鉱業史 : 業界誌『石灰石』を中心として」『三田商学研究』第47巻第4号、慶應義塾大学出版会、115-138頁、2022年12月4日閲覧 
  2. ^ a b c d e f g h 角田清美「古代から中世前期における石灰と漆喰の利用 (内藤雅雄教授退職記念号)」『専修人文論集』第88巻、専修大学学会、49-76頁、2022年12月4日閲覧 
  3. ^ いち早く使用制限-廉価で大流行の石灰肥料 三重県環境生活部文化振興課県史編さん班 2017年7月17日閲覧
  4. ^ 大山の歴史編集委員会(編)『大山の歴史』大山町、1990年、p.525

関連項目

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外部リンク

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