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使用貸借

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使用貸借(しようたいしゃく)は、当事者の一方(借主)が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方(貸主)からある物を受け取ることを内容とする契約日本民法では典型契約の一種とされる(民法第593条)。

  • 日本の民法は、以下で条数のみ記載する。

概説

使用貸借の意義

民法に規定される使用貸借は当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方から目的物を受け取ることを内容とする要物・無償・片務契約である(第593条)。

使用貸借は消費貸借賃貸借と同じく貸借型契約(使用許与契約)に分類される[1][2]。借主と貸主に親族関係など、個人的な信頼関係が存在することが想定された類型である。ただ、親族間の土地貸借などの場合、使用貸借なのか賃貸借なのか無償の地上権なのかをめぐって問題となる場合があるとされる[3][4]

使用貸借の性質

  • 要物契約
    賃貸借が諾成契約であるのに対して使用貸借は要物契約である(593条の「物を受け取ることによって」の文言)。沿革的な理由によるもので、目的物の交付は現実の引渡しのほか簡易の引渡し占有改定でもよい[5]。現代的な意義としては単なる合意の段階で裁判によってまで目的物を貸すことを要求する権利を認める必要はない点が理由とされる[3]。ただし、要物性を緩和し、使用貸借の予約や諾成的使用貸借も有効に成立する(通説)[6]
  • 無償契約
    使用貸借は無償契約である。多少の金銭等の交付があっても対価性が認められない限り無償契約である[7]。貸主の担保責任については同じ無償契約である贈与者の担保責任の規定(第551条)が準用される(第596条)。したがって、貸主は目的物の瑕疵について原則として責任を負わず、例外的に貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときに限って責任を負う(第596条第551条第1項)。なお、負担付贈与が認められるのと同様に負担付使用貸借も認められる[5]
  • 片務契約
    使用貸借は借主が返還債務を負うのみであり片務契約である[5]。契約が成立するために目的物の交付を要する要物契約であるため、契約成立後において貸主の目的物引渡債務を観念できない[8]

使用貸借の成立

要物契約

使用貸借は要物契約であるため契約が成立するためには目的物の交付を要する(593条)。目的物は不動産動産かを問わないが、契約の性質上、使用により消滅してしまう物は目的物となりえない[9][10](非消費物を目的物とする点で消費物を目的物とする消費貸借と異なる)。

物の分類(消費物と非消費物)については物 (法律)#消費物と非消費物も参照。

要物性の緩和

先述の通り使用貸借の予約や諾成的使用貸借も認められるが、無償契約であるため書面によらない贈与の撤回について規定した第550条類推適用すべきとされる[3][11]

使用貸借の効力

対内的関係

  • 借主の使用収益権と貸主の用益受忍義務
    • 借主の使用収益権
      借主は借用物を無償で使用収益できる(使用収益権第593条)。使用収益にあたって借主は用法遵守義務を負うとともに(第594条1項)、目的物を第三者に使用・収益させない義務を負う(ただし、貸主の承諾を得たときは例外的に許容される)(第594条2項)。借主がこれらの規定に違反して使用・収益をしたときは、貸主は契約の解除をすることができる(第594条3項)。また、借主は契約の本旨に反する使用収益によって生じた損害を賠償しなければならない(ただし、貸主が返還を受けた時から1年の除斥期間に服する(第600条)。
      • 借主の目的物保管義務
      借主は借用物の保管において善管注意義務を負う(第400条)。善管注意義務違反の場合は債務不履行となる[11]
      • 借主の費用負担義務
      借用物の通常の必要費の負担義務を負う(第595条1項)。その他の費用については第583条2項、第196条の規定によって負担する。ただし、貸主が負担すべき費用について借主が支出した場合の償還は、貸主が返還を受けた時から1年の除斥期間に服する(第600条)。
    • 貸主の用益受忍義務
    借主の使用収益権に対応して、貸主は用益受忍義務(使用収益受忍義務・許容義務)を負うことになるが、この義務は借主による使用収益を妨害しないという消極的な義務にとどまる[9][4][11]
    • 貸主の解除権
    借主が用法遵守義務に違反したり、貸主に無断で第三者に使用収益させた場合、貸主は契約を解除することができる(第594条3項)。第541条の特則であり借主の帰責事由や催告は不要である[12]
  • 借主の目的物返還義務
借主は契約に定めた時期(第597条1項)または借主が契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に返還する義務を負う(597条2項)。期間も目的も定めていない場合には、貸主が返還を請求したときに返還する義務を負う(597条3項)。なお、返還に際して借主は借用物を原状に回復して収去する義務を負う(第598条)。
  • 貸主の担保責任
貸主は用益受忍義務のほか担保責任を負う(第596条)。ただし、無償契約であるため贈与者担保責任の規定(第551条)が準用され、その規定にしたがって担保責任を負担する。

対外的関係

  • 対抗力
    使用貸借は第三者に対して対抗力を持たない[3]。目的物につき他者の賃借権と競合する場合、現に占有している者(占有の早い方)が優先するが、対抗要件を備えた賃借権に対して使用貸借は劣後する[13]
  • 妨害排除請求
    使用貸借に基づく妨害排除請求はできないが、借主は債権者代位権の転用により所有者の妨害排除請求権を行使しうる[13]

使用貸借の終了

終了原因

以下の場合には使用貸借は終了するので、借主は借用物を貸主に返還しなければならない。

  • 返還時期の定めがある場合
    契約に定められた返還時期が到来した場合には使用貸借は終了する(第597条1項)。期限不確定期限であってもよい[14]
  • 返還時期の定めのない場合
    • 使用目的の完了
    返還時期を定めなかった場合でも借主が契約に定めた目的に従って借用物の使用・収益が終わった場合には使用貸借は終了する(第597条2項本文)。目的は個別具体的なものでなければならない[14]
    • 使用収益に足りる期間の経過
    借主が使用・収益をするのに足りる期間を経過したとみられる場合、貸主は使用貸借契約を解約して返還請求しうる(第597条2項但書)。借主が現に使用収益中の場合が問題となるが、諸般の事情を考量した上で判断すべきとされる(通説)[15]。なお、597条2項但書を類推適用して当事者間の信頼関係が破綻したとみられるときは解約しうる[15]信頼関係破壊の法理も参照)。
  • 返還時期・使用目的の定めのない場合
    貸主は何時でも使用貸借契約を解約して返還を請求しうる(第597条3項)。
  • 借主の死亡(第599条
賃貸借とは異なり使用貸借は相続の対象とはならず借主の死亡により終了する(第599条。判例として最判昭32・8・30裁判集民27巻651頁)[16][17]。使用貸借は人的な信頼関係と貸主の好意的動機を基礎とするものであるためとされる(ただし、借主が死亡しても使用貸借を存続させる特約は認められる)[18][17]

収去権

借主は借用物につき原状回復し附属物を収去することができる(第598条)。

脚注

  1. ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、109頁
  2. ^ 柚木馨・高木多喜男編著 『新版 注釈民法〈14〉債権5』 有斐閣〈有斐閣コンメンタール〉、1993年3月、2頁
  3. ^ a b c d 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、174頁
  4. ^ a b 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、176頁
  5. ^ a b c 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、204頁
  6. ^ 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、175頁
  7. ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、205頁
  8. ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、203頁
  9. ^ a b 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、173頁
  10. ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、206頁
  11. ^ a b c 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、207頁
  12. ^ 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、208頁
  13. ^ a b 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、178頁
  14. ^ a b 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、209頁
  15. ^ a b 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、180頁
  16. ^ 内田貴著 『民法Ⅱ 第3版 債権各論』 東京大学出版会、2011年2月、174-175頁
  17. ^ a b 川井健著 『民法概論4 債権各論 補訂版』 有斐閣、2010年12月、210頁
  18. ^ 近江幸治著 『民法講義Ⅴ 契約法 第3版』 成文堂、2006年10月、181頁