キルヒホッフの法則 (電気回路)
電気回路におけるキルヒホッフの法則(キルヒホッフのほうそく、英: Kirchhoff’s Law)とは、導線の電気抵抗が無視できる(準)定常電流の流れる回路において、任意の節点を流れる電流の総和がゼロであるという電流則(英: KCL, Kirchhoff’s Current Law)と、任意の閉路の起電力の総和が電圧降下の総和に等しいという電圧則(英: KVL, Kirchhoff’s Voltage Law)のことである。
それぞれ「流れ込む電流の和と流れ出る電流の和の大きさは等しい」と「電圧降下の総和がゼロである」と表現されることもある。1845年にグスタフ・キルヒホフがオームの法則から導出した[1]。
電流則
定常電流は を満たすので、ただし2つ目の等号でガウスの発散定理を用いた。
電圧則
ファラデー=マクスウェルの法則を回路上の任意の閉路 を縁とする面 で面積分すると、ストークスの定理と磁束の定義より、左辺のうち電池の部分を線積分した値の逆符号を(その電池の)起電力といい、右辺を誘導起電力という。左辺のうち電池やコイル、トランス以外の回路素子(抵抗器やコンデンサーなど)の部分を線積分した値を電圧降下という。ここで導線は電気抵抗を無視しているので電圧降下も存在しないことを考えると、次が成り立つ。抵抗器やコンデンサーであれば電圧降下は電位差の逆符号に一致するが、起電力や誘導起電力の原因は非保存力なので電位(静電ポテンシャル)を定義することができず、電池であれば電気化学ポテンシャルの差になってしまう。
主な回路素子については次のような線形関係を定めることが一般的である。
- 抵抗器の電圧降下が と表されることを、その抵抗器の抵抗値が であるという。
- コンデンサーの正極板から負極板への電圧降下が と表されることを、そのコンデンサーの静電容量が であるという。
- コイルの電圧降下が と表されることを、そのコイルの自己インダクタンスが であるという。
ここで「コイルの電圧降下」とはコイルに生じる誘導起電力の項を機械的に移行したことによって得られた副次的な項であり、定常状態ではコイルに沿った電場の成分がゼロ、つまり自己誘導で生じる誘導電場と他の回路素子が作る電場が打ち消し合う必要があるため、これは「他の回路素子によって作られる電場」に対応する電圧降下と解釈することができる[2]。もちろん、本来の自己インダクタンスの定義はコイルを貫く磁束が という線形関係を満たすことなので、トランスなどの場合は相互インダクタンスまで考慮しなければならない。
この議論は、ベクトルポテンシャルを用いて得ることもできる[3]。
出典
- ^ Kirchhoff, Studiosus (1845). “Ueber den Durchgang eines elektrischen Stromes durch eine Ebene, insbesondere durch eine kreisförmige” (ドイツ語). Annalen der Physik und Chemie 140 (4): 497–514. doi:10.1002/andp.18451400402 .
- ^ 田崎, 晴明. “数学:物理を学び楽しむために”. 2021年8月8日閲覧。
- ^ 大石, 進一 (2014). “回路理論の講義体系に関する思索と実践:論理的に厳密に,また実験も”. IEICE ESS Fundamentals Review 7 (4): 301–307. doi:10.1587/essfr.7.301. ISSN 1882-0875 .